インフルエンザのヘルプナビ

監修:北海道大学 人獣共通感染症リサーチセンター
特別招聘教授 喜田 宏先生

インフルエンザウイルスの基礎知識薬剤耐性インフルエンザ
ウイルスとは?

トピックス
  1. インフルエンザウイルスは「遺伝子変異」する?!

  2. インフルエンザウイルスの薬剤耐性メカニズムとは?

  3. 薬剤耐性インフルエンザウイルスには薬が効かないの?

  4. インフルエンザウイルスの薬剤耐性はどのように調べているの?

ウイルスと細菌の違い

インフルエンザウイルスは8本の遺伝子RNAから合成された10または11のタンパク質により構成されるとても小さな粒子です1)。細菌は遺伝子DNAを持ち、分裂して増殖します。一方、インフルエンザウイルスは遺伝子RNAを持ちますが、自身で増殖することができません。

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宿主細胞に感染したインフルエンザウイルスは、細胞内で遺伝子RNAをコピーして(複製)、伝令RNAをつくり(転写)、その伝令RNAからウイルスを構成するタンパク質(アミノ酸配列)をつくります(翻訳)。また遺伝子RNAの複製と転写に関与する酵素を「RNAポリメラーゼ」といいます。遺伝子はコピーの過程で、一定頻度でコピーミス(塩基配列の読み間違い)をします。コピーミスのことを「変異」といいます。インフルエンザウイルスのRNAポリメラーゼには、DNAポリメラーゼが持っている遺伝子変異を修復する機能がありません。コピーミスを起こした伝令RNAは、多くの場合、異なるアミノ酸に翻訳されます。

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インフルエンザウイルスは増殖するときにコピーミスをすることがあるのじゃ。結果としてインフルエンザウイルスは、そのタンパク質を構成するアミノ酸のうち、1個異なるウイルスが10,000ウイルスに1ウイルス程度の割合で変異ウイルスになるのじゃ2)

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インフルエンザウイルスを構成するタンパク質のアミノ酸配列が異なると、元のウイルスとは性質の異なるウイルスが生まれます。インフルエンザウイルスのヘマグルチニン(HA)やノイラミニダーゼ(NA)遺伝子にも一定頻度で変異が起こります。インフルエンザウイルスに対し免疫があると、抗体は結合します。しかしながら、HA やNA分子上の抗体が結合する部位(エピトープ)のアミノ酸が変異すると、抗体はインフルエンザウイルスと結合しません。その結果、免疫から逃れて優勢となり、抗原性が異なるインフルエンザウイルスが選ばれて、シーズンを通して流行するウイルスになります。

「抗体」とは、その異物の特徴を覚え、結合して攻撃する役割を持ったタンパク質なのじゃ。また、「抗原性」とは、抗体がどれだけ異物に結合しやすいか、すなわち「ヒトにとって異物と認識されるかどうかの度合い」といえるのじゃ。

インフルエンザウイルスの薬剤耐性メカニズムとは?

インフルエンザウイルスの遺伝子変異が薬の結合する部分のアミノ酸の変異(置換)を起こすと、そのウイルスには薬が強く結合しません。そのようなインフルエンザウイルスを、薬剤耐性インフルエンザウイルスといいます。薬剤耐性インフルエンザウイルスは、その薬剤存在下で優勢に増えることができます。

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インフルエンザウイルスに感染すると皆さんの免疫が働き始めます。抗インフルエンザ薬はインフルエンザウイルスの増殖を抑制することで、免疫がインフルエンザと戦うことを手助けします。その結果、体からインフルエンザウイルスがいなくなるまでの時間を早めることが期待できます。

薬の結合に影響のない変異インフルエンザウイルスには薬は効くのじゃ。つまり、変異インフルエンザウイルスがすべて薬剤耐性インフルエンザウイルスという訳ではないのじゃ。

薬剤耐性インフルエンザウイルスには薬が効かないの?

薬剤耐性インフルエンザウイルスとは、本来有効である抗インフルエンザ薬が効かない、あるいは効きにくくなったウイルスのことです。薬剤耐性インフルエンザウイルスは、本来有効である治療薬に対し抵抗性を示しますが、他のインフルエンザウイルスと比較して病原性や感染性が強いものは今のところ確認されていません。また、薬剤耐性ウイルスに対してワクチンが効きにくくなることもありません3)

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薬剤耐性インフルエンザウイルスはどのように調べているの?

薬剤耐性インフルエンザウイルスは遺伝子解析により薬剤耐性マーカーを検出する方法や、薬剤感受性試験という方法で調べています。医療機関で行われる迅速抗原診断検査では調べることができません。
国内の検出状況については、国立感染症研究所4)新潟大学5)などで調査(サーベイランス)を行っています。

参考文献

1)北海道大学大学院獣医学研究院・獣医学部微生物学教室:インフルエンザウイルスとは
https://www.vetmed.hokudai.ac.jp/organization/microbiol/fluknowledgebase.html

2)Cheung,P.P.et al.:RNA.,2015,21(1),36-47

3)厚生労働省:インフルエンザQ&A, Q12 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html

4)国立感染症研究所:抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランス https://www.niid.go.jp/niid/ja/influ-resist.html

5)新潟大学大学院医歯学総合研究科国際保健学分野:抗インフルエンザ剤感受性低下株調査|Antiviral Susceptibility
http://www.med.niigata-u.ac.jp/pub/category/influenzasearch/