インフルエンザのヘルプナビ

監修:北海道大学 人獣共通感染症リサーチセンター
特別招聘教授 喜田 宏先生

インフルエンザウイルスの基礎知識インフルエンザウイルス
とは?

トピックス
  1. インフルエンザウイルスはどのような構造をしているの?

  2. 抗原性によって「型」、「亜型」に分かれる!

  3. A型インフルエンザウイルスは「人獣共通感染症」を起こす

  4. インフルエンザウイルスはどこで増殖するの?

  5. インフルエンザウイルスはどのように増殖するの?

  6. なぜインフルエンザは毎年流行するの?

インフルエンザウイルスはどのような構造をしているの?

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インフルエンザウイルスは、8本に分かれた遺伝子RNAから合成された10または11のタンパク質により構成されるとても小さな粒子です1)。自身では増殖できず、宿主(動物)の細胞に感染し、その細胞を多数の子孫ウイルスをつくる工場にしてしまいます。インフルエンザウイルスはA型、B型、C型およびD型の4つの属に分類されます2)。季節性インフルエンザの流行を起こすのは主にA型とB型インフルエンザウイルスです。A型とB型インフルエンザウイルスの表面にはヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という2つのタンパク質(スパイクタンパク質)がとげのように出ています。HAとNAはインフルエンザウイルスが細胞に感染し、増殖する際に重要な役割を担います。

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C型とD型インフルエンザウイルスは遺伝子RNAが7本に分かれているのじゃ。また、ヘマグルチニンエステラーゼ膜融合タンパク(HEF)という1種類のタンパク質(スパイクタンパク質)がHAとNAの役割を果たしているのじゃ。

C型インフルエンザウイルスは主にヒトに感染して、かぜ様の軽い上気道炎を起こすが、大流行は起こさないのじゃ。 D型インフルエンザウイルスは、ウシ、ブタ、ヤギ、ラクダ、ヒツジ3)に感染するが、家畜に対する病原性(病気を引き起こす性質又はその程度)と伝播性(感染の広がりやすさ)、ヒトへの感染性については不明なのじゃ。

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抗原性によって「型」、「亜型」に分かれる!

インフルエンザウイルスはウイルス核タンパク質(NP)およびマトリックスタンパク質(M1)の抗原性の違いによって、A型、B型、C型およびD型の4つの属に分類されます2)

「抗原」とはヒトの体に入ったときに異物と認識される物質を指し、「抗体」とはその異物の特徴を覚え、結合する役割を持った物質を指します。これを免疫抗体と呼びます。さらに「抗原性」とは、抗体がどれだけ異物に結合しやすいか、つまり「ヒトによって異物と認識される度合い」です。

また、A型インフルエンザウイルスは、HAとNAの抗原性の違いによって、さらに亜型に分けられています。現在、HAには16の亜型、NAには9の亜型が知られています。

例えば、ヘマグルチニンがH1で、ノイラミニダーゼがN1であれば、A(H1N1)というように呼ばれます。「H1N1」はHAの1番とNAの1番というように、その組み合わせがインフルエンザウイルスの名につけられ、A型インフルエンザウイルスには、16×9=144通りのHAとNAの組み合わせがあります。

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B型、C型およびD型インフルエンザウイルスには亜型が存在しないのじゃ。B型は、亜型は存在しないがHAの抗原性からビクトリア系統と山形系統に分類されるのじゃ。

A型インフルエンザウイルスは「人獣共通感染症」を起こす

インフルエンザは、ヒトと動物のどちらにも感染する「人獣共通感染症」の1つです。A型インフルエンザウイルスは、カモなどの渡り水鳥の腸に感染し、糞便と共に水中に排泄され、冬には凍結されて自然界に存続しています。このようにインフルエンザウイルスと共生関係にある動物を自然宿主と呼びます。そのほかさまざまな鳥、そしてブタ、ウマ、ヒトなどの哺乳動物にもA型インフルエンザウイルスが感染します。

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インフルエンザウイルスはどこで増殖するの?

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インフルエンザウイルスは、感染した人の“咳”や“くしゃみ”など水分に包まれた状態(飛沫)で空中にばらまかれます。飛沫核として別の人に吸い込まれたインフルエンザウイルスは、鼻やのどの細胞に入り込み、その細胞を子孫ウイルスをつくる工場にして増えます。その後、気管や気管支の細胞にも感染して、沢山のインフルエンザウイルスが“咳”や“くしゃみ”などと一緒に排泄されて、次の人に感染します。

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インフルエンザウイルスはどのように増殖するの?

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①吸着・侵入

インフルエンザウイルスは体内に入り、ウイルスの表面にあるHAが、細胞の表面にある受容体(シアル酸糖鎖レセプター)に吸着し、細胞に侵入する足がかりにします。その後、インフルエンザウイルスは細胞の貪食作用(エンドサイトーシス)により、細胞内のエンドソームに包まれます。

②膜融合・脱殻

インフルエンザウイルスの膜(エンベロープ)とエンドソームの膜が融合します。この膜融合を起こすためには、HAがHA1とHA2に分かれて(開裂して)いる必要があります。HA2の融合ペプチドがエンドソームの膜に作用して、ウイルスエンベロープと融合させるのです。したがって、HAが開裂していなければ、インフルエンザウイルスは、感染・増殖できません。次に、インフルエンザウイルス内部の遺伝子RNAを含む核タンパク質(RNP複合体)は、細胞質に放出され、次いで細胞の核に入り込みます。

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③複製・転写・翻訳

核の中に移行したRNP複合体は、インフルエンザウイルス自身が持つ酵素(RNA依存性RNAポリメラーゼ)により、遺伝子RNAをコピー(複製)し、伝令RNAつくります(転写)。伝令RNAは細胞質に移動してインフルエンザウイルスを構成するタンパク質(アミノ酸配列)をつくります(翻訳)。

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④出芽

複製された8本に分かれた遺伝子RNAがNP、M1およびポリメラーゼ複合体(PB1、PB2、PA)とセットされ、子孫ウイルスとして細胞膜表面から出芽します。

⑤遊離・放出

子孫ウイルスはNAを使って、シアル酸糖鎖レセプターから自身を切り離し、細胞から出ていきます。

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なぜインフルエンザは毎年流行するの?

遺伝子変異に伴う抗原性の変化

インフルエンザが毎年流行するのは、年ごとに抗原性が違うウイルスが登場することが大きな原因です。また、遺伝子はコピーの過程で、一定頻度でコピーミス(塩基配列の読み間違い)をします。コピーミスのことを「変異」といいます。遺伝子RNAの複製と転写に関与する酵素(RNAポリメラーゼ)は、遺伝子DNAの複製と転写に関与する酵素(DNAポリメラーゼ)が持っている遺伝子変異を修復する機能がありません。そのため、コピーミスにより作られた伝令RNAは、多くの場合、異なるアミノ酸に翻訳されます。
インフルエンザウイルスを構成するタンパク質のアミノ酸配列が異なると、元のウイルスとは性質の異なるウイルスが生まれます。インフルエンザウイルスのHAやNA遺伝子にも一定頻度で変異が起こります。ウイルスに対する免疫抗体はウイルスに結合します。しかしながら、HA やNA分子上の抗体が結合する部位(エピトープ)のアミノ酸が変化すると、抗体はウイルスと結合が弱まります。

インフルエンザウイルスは増殖するときにコピーミスをすることがあるのじゃ。結果としてインフルエンザウイルスは、そのタンパク質を構成するアミノ酸のうち、1個異なるウイルスが10,000ウイルスに1ウイルス程度の割合で変異ウイルスになるのじゃ4)

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参考文献

1)北海道大学大学院獣医学研究院・獣医学部微生物学教室:インフルエンザウイルスとは
https://www.vetmed.hokudai.ac.jp/organization/microbiol/fluknowledgebase.html

2)国立感染症研究所:インフルエンザ診断マニュアル(第4版) https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/influenza20190116.pdf

3)村上 他:ウイルス, 2017, 67(2), 161-170

4)Cheung,P.P.et al.:RNA., 2015, 21(1), 36-47