インフルエンザのヘルプナビ

監修:北海道大学 人獣共通感染症リサーチセンター
特別招聘教授 喜田 宏先生

インフルエンザウイルスの基礎知識インフルエンザウイルス
とは?

トピックス
  1. ウイルスとは

  2. インフルエンザウイルスとは

ウイルス

私はインフルエンザウイルスです。
私は皆さんののどや鼻から体内に入り込み、その後増殖して仲間を増やしていきます。私の増殖に対する皆さんの反応がインフルエンザという病気なのです。
さっそくですが、私たちウイルスのことを紹介させてください。
私たちは、目には見えないけれど皆さんのまわりに無数に棲んでいる微生物の仲間です。微生物には、非常に多くの種類があります。顕微鏡でやっと見ることができる「細菌」や、もっと小さな「ウイルス」も微生物です。インフルエンザウイルスは、その中の「オルトミクソウイルス科」というグループに属しています。

ウイルスと細菌の違い

それでは、まず、私たちウイルスと細菌がどのように違うのかをお話ししましょう。

ウイルスの大きさは
細菌よりもずっと小さい

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ウイルスはとても小さく、電子顕微鏡ではじめて見ることができます。たとえば、インフルエンザウイルスの直径はわずか80~120ナノメートル。ナノメートル(nm)とは、1mの10億分の1ですから、気が遠くなるほど小さい微生物、それが私たちウイルスです。細菌の一種である大腸菌の10分の1以下の大きさです。
私たちウイルスの存在は、1892年にロシアの医師が細菌を研究しているときに、「細菌濾過器」を通り抜けてしまう小さな病原体があることに気づいたことから知られるようになりました。やがてその小さい病原体は植物や動物、昆虫などさまざまな生物で見つけられ、細菌とは異なるものとして「ウイルス」(ラテン語で「毒」、のちに「病原体」の意)と名付けられました。2)

ウイルスは細菌よりもずっと小さいために光学顕微鏡では見ることができない。20世紀に入って電子顕微鏡が開発されるまで、その姿をとらえることができなかったのじゃ。

遺伝子とそれを包む殻だけでできているウイルス

ウイルスは「生物と無生物の中間」などと言われることがあります。その理由は、細菌を含め、生物の細胞に必ずあるミトコンドリアなどの小器官(オルガネラ)やリボソームを持っていないからです。ウイルスは遺伝子とそれを包むタンパク質でできた殻(カプシド)で構成されるきわめて単純な構造をしており、また自分自身では増えることはできません。動物や植物の細胞の中に入ってはじめて増えることができるのです。
もう一つの理由は、私たちが「代謝」をしないからです。たとえば皆さんは呼吸をして酸素を取り入れることで有機物を分解し、二酸化炭素を排出します。また、ほとんどの植物は光合成をして、光のエネルギーから有機物を作り出します。このように生物が生きるために行う「代謝」という活動を私たちはしません。私たちは自分自身では生きていくためのエネルギーを産生することも、タンパク質を作り出すこともできないのです。だから、私たちウイルスは生物ではないと言われるのでしょうね。

ちなみにインフルエンザウイルスは、細胞で増殖、成長して、細胞から芽を出すように細胞からもらった膜(エンベロープ)をかぶって外に出ます。だから私は「エンベロープウイルス」と呼ばれることもあるのです。ウイルスの中にはエンベロープを持たないものもあります。

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ウイルスは遺伝子としてRNAかDNAのどちらか一方しか持っていない

私たちも皆さんと同じように遺伝子を持っています。ただ、その遺伝子が皆さんのものとは異なります。

すべての生物は2本鎖のDNAという遺伝情報を担う核酸を持っており、その情報がRNAと呼ばれる核酸に転写されタンパク質に翻訳されます。しかし、私たちウイルスは遺伝子としてDNAかRNAのどちらかひとつしか持っていません。そしてDNAウイルスの多くは2本鎖、RNAウイルスの多くは1本鎖の核酸を遺伝子としています。まれに1本鎖DNAを遺伝子とするウイルスや、2本鎖RNAを遺伝子とするウイルスもいます。ちなみに私、インフルエンザウイルスは「1本鎖のRNAウイルス」です。

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【主なウイルスの種類】3)
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ほぅ、われわれがよく知っているウイルスは、1本鎖のRNAウイルスが多いのじゃな。

宿主に寄生して増殖する

ここでひとつの疑問は、「遺伝子を持っているが、自分ではエネルギーをつくれない私たちがどうして増殖できるのか。」です。
その答えは「生きている細胞の仕組みを利用する」です。私たちは皆さんの体の中に入り込み、皆さんの体の細胞の中で増殖するのです。私たちにとってヒト、鳥やブタなどの動物は文字どおり「宿主」と言うことになります。
一方で、ほとんどの細菌は、自分自身の細胞を分裂させることで増殖します。ひとつの細胞がどんどん分裂して増殖するのです。
ところが私たちウイルスは宿主細胞の中に自分の遺伝子を放出して、増殖するために必要なタンパク質をつくり、自分の遺伝子を大量にコピーするという方法で増殖します。つまり、宿主に寄生しないと生きていけないのが私たちウイルスなのです。

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ウイルスの生存に欠かせない宿主。「やどぬし」って読む人も多いけど、正しくは「しゅくしゅ」なのじゃ。

インフルエンザウイルスとは

4つの「型」は何が違うの?

インフルエンザが流行し出すと、「今年はA型インフルエンザウイルス感染症」とか「職場ではB型インフルエンザウイルス感染症が流行っている」といった話を聞きますよね。実はインフルエンザウイルスにはA型、B型、C型とD型の4つがあります。4)このうち、季節性インフルエンザの流行を起こすのは主にA型インフルエンザウイルスとB型インフルエンザウイルスです。

4つの型は、「抗原性」の違いで分けられています。

「抗原」とはヒトの体に入ったときに異物と認識される物質を指し、「抗体」とはその異物の特徴を覚えて結合して攻撃する役割を持った物質を指します。さらに、「抗原性」とは、抗体がどれだけ異物に結合しやすいか、ということで「ヒトにとって異物と認識されるかどうかの度合い」と言えます。

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インフルエンザウイルスはウイルス粒子内部を構成している核タンパクのヌクレオカプシドタンパク(NP)、マトリックスタンパク(M1)の抗原性の違いによって、A型、B型、C型、D型の4つの属に分類されています。A型、B型、C型、D型と呼ばれていますが、正式な名称はそれぞれ「インフルエンザウイルスA属」「インフルエンザウイルスB属」「インフルエンザウイルスC属」と「インフルエンザウイルスD属」であり、生物学上はそれぞれ独立した別のウイルスということになります。

構造も少し異なっており、A型とB型のインフルエンザウイルスは遺伝子RNAが8つの分節に分かれていますが、C型とD型のインフルエンザウイルスは7分節です。

なるほど、A型インフルエンザウイルス感染症の方がB型インフルエンザウイルス感染症に比べて高い熱が出やすい5)と言われているのは、別々のウイルスが原因だからなのじゃな。

HA(ヘマグルチニン)とNA(ノイラミニダーゼ)

A型とB型のインフルエンザウイルス粒子の表面には、ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という2つのタンパク質(スパイクタンパク質)がとげのように出ています。HAは宿主動物の細胞の受容体にくっつく「のり」のような役目を果たしています。細胞は、くっついたウイルスをエンドソームと呼ばれる膜包に取り込みます。HAは、次にウイルスを包むエンベロープという膜とエンドソーム膜を融合させ、ウイルス遺伝子を細胞質に放出させることによって、感染を開始する役目を果たします。そして、感染細胞で増殖したウイルスが、細胞から出ていくときには、NAが「はさみ」のように自分と細胞を切断します。つまり、A型とB型インフルエンザウイルスはのりとはさみ…じゃなくてHAとNA、2つのスパイクタンパク質の合わせ技で細胞に感染し、増殖するのです。
一方、C型とD型インフルエンザウイルスにはヘマグルチニンエステラーゼ(HEF)という1種類のタンパク質しかなく、これ1つがHAとNAの役割を果たします。

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小さいけれど、こんな高度が仕組みが備わっているのじゃな…。

A型インフルエンザウイルスは、144人ものきょうだいがいる?

「亜型」とは「型」をさらに細かく分類したもので、別名「サブタイプ」と呼ばれます。私たちインフルエンザウイルスの仲間の中ではA型インフルエンザウイルスだけに亜型があります。

というのは、先ほど紹介したA型インフルエンザウイルスのヘマグルチニン(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)という2つのスパイクタンパク質には、さらに抗原性が異なるものが確認されており、現在のところHAは16種類、NAは9種類見つかっています。たとえば「H1N1」という名称であればHAの1番とNAの1番というように、その組み合わせでつけられています。ですから、一口にA型インフルエンザと言っても、実際は16×9=144種類の亜型が存在するのです。
似ているけど少しずつ性格の違うきょうだいが144人もいるのです。

【インフルエンザウイルスの種類と特徴】6) 7)
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参考文献

1)泉 孝英ほか:医療者のためのインフルエンザの知識, 2007, pp.11-12, pp.14-15, p.22, 医学書院, 東京

2)標準微生物学 第13版, 2018, pp.322-323, 医学書院, 東京

3)標準微生物学 第13版, 2018, p334, 医学書院, 東京

4)国立感染症研究所:インフルエンザ診断マニュアル(第4版) https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/influenza20190116.pdf

5)日本臨床内科医会:インフルエンザ診療マニュアル 2019-2020年シーズン版(第14版), p.5

6)加地 正郎:インフルエンザとかぜ症候群 改訂2版, 2003, pp.17-20, 南山堂, 東京

7)長谷川 秀樹:インフルエンザウイルスと人類の戦い, 2011, pp.52-53, C&R研究所, 東京